ソーシャルレンディングの「匿名化」とは?【解除で何が変わるのか】

ソーシャルレンディングの匿名化とは

ソーシャルレンディングの匿名化とは、「ソーシャルレンディング事業者が投資家に借り手企業の詳細情報を開示してはいけないというルールのこと」です。

日本でソーシャルレンディングが始まったのは2008年ですが、当時からソーシャルレンディング事業を行っていたmaneoは、借り手の企業名などを公開していました。

しかし、2014年に金融庁からソーシャルレンディング事業者に対して、「借り手の詳細情報を開示しない(匿名化)」「1つの案件で融資する企業の数は複数にすること(バスケット化)」という指導が入りました。

もしも投資家へ借り手の詳細情報を開示してしまうと、「貸金業法三条1項に抵触してしまう可能性がある」と金融庁は考えたのです。

貸金業法三条1項

貸金業を営もうとする者は、二以上の都道府県の区域内に営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては内閣総理大臣の、一の都道府県の区域内にのみ営業所又は事務所を設置してその事業を営もうとする場合にあつては当該営業所又は事務所の所在地を管轄する都道府県知事の登録を受けなければならない。

出典:金融庁 

上記のように、事業としてお金を貸すためには、貸金業者として登録を受ける必要があります。しかし、私たち一般の投資家は、貸金業者の登録を受けていません。

そのため、もし借り手企業を特定できる情報が開示されてしまうと、ソーシャルレンディング事業者を経由して貸金業の免許を持っていない人が実質的に貸金業を営んでいることになってしまいます。

また、匿名化が行われていないと、投資家が借り手企業に対して取り立てを行ってしまうなど、違法行為が発生する可能性もあります。

匿名化の弊害

匿名化は、ソーシャルレンディング最大の問題点と言われてきました。これは、匿名化により以下のような弊害が発生してしまったからです。

  • 投資家が借り手企業の返済能力を判断できない
  • 匿名化を悪用する事業者が続出

投資家が借り手企業の返済能力を判断できない

借り手の詳細情報が開示されれば、会社の財務状況などから借り手の返済能力を客観的、合理的に判断することができます。

しかし、匿名化されていると、それができず、担保の評価もできません。

そのため、ソーシャルレンディング投資をする時には、ソーシャルレンディング事業者の審査能力を信頼するしかありません。これは投資家保護の観点から著しい不利益があります。

匿名化を悪用する事業者が続出

匿名化されている状況だと、もし甘い審査で貸したり、事前の説明と異なるところに貸したりしても、投資家は知ることができません。

過去には、匿名化を悪用して詐欺まがいのことをして、行政処分を受けてしまった事業者が続出しました。その結果、投資家が損失を被ってしまいました。

匿名化解除の経緯

匿名化は以下のような経緯で、ついに解除されました。

2018年6月 内閣府の「規制改革推進に関する第3次答申」

以前から、「匿名化は解除した方が良いのではないか」という声がありましたが、匿名化解除の議論は2018年になって本格化しました。

2018年6月には内閣府の「規制改革推進に関する第3次答申」で匿名化の解除の必要について言及されています。

クラウドファンディングは、新規・成長企業等と資金提供者をインターネット経由で結び付け、多数の資金提供者から少額ずつ資金を集める仕組みである。このうち、融資型クラウドファンディング(貸付型クラウドファンディング、P2Pレンディング、ソーシャルレンディングとも呼ばれる。)においては、資金の出し手(投資家)に係る貸金業法(昭和 58 年法律第 32 号)に基づく貸金業登録の要否は、投資家が貸付けの実行判断を行っているかどうかによって判断されている。貸付の実行判断の有無を見極める上で、規制当局においては制度の運用上、借り手を特定することができる情報が明示されていないこと(匿名化)と、複数の借り手に対して資金を供給するスキームであること(複数化)が考慮の一要素となり得るとされているが、実態としては、これら「匿名化」及び「複数化」の要素のみが強調されており、投資家が貸金業法上の貸付主体とはならないことを担保するためにプラットフォーム運営者が投資家に対して借り手の特定につながる情報を明示することを控え、また、複数化されたファンドへの投資の勧誘しかできていない。かかる状況は、投資家保につながらず、むしろ、不適切な融資を行うファンドへの投資を防止できないとの意見がある。市場の健全な成長のためには、プラットフォーム運営者が提供するサービスの果たす機能に着目し、事業の実態や制度の趣旨等に即して、新たな方策を検討する必要がある。

(中略)

融資型クラウドファンディングに関して、借り手の匿名化・複数化が必須ではないことを前提として、提供される金融サービスの果たす機能に即し、融資型クラウドファンディングのプラットフォームを運営する事業者、投資家、登録行政庁などの関係者の意見も聴取しつつ、金融商品取引法上の投資家保護と貸金業法上の借り手保護を図る観点を踏まえ、投資家に個別の貸金業登録を不要とするため従来の考慮の一要素とされてきた匿名化・複数化と並存する運用上の新たな方策を、借り手の属性なども含めて検討する。その際、実態として貸金業法上の具体的な懸念が発生していないとの指摘もあったことから、同法上の考慮が必要となる場合をできるだけ明確化し、適切な方法で公表する。

出典:内閣府

この答申を受けて、ソーシャルレンディング投資家の間でも、「近いうちに匿名化が解除されるのではないか」と話題になりました。

2018年12月 証券取引等監視委員会による建議

2018年後期から2019年前期にかけては、不適切な営業を行っていたソーシャルレンディング事業者が相次いで行政処分を受けました。

2018年12月7日に『トラストレンディング』を運営しているエーアイトラスト株式会社に対して行われた1回目の行政処分もその1つでした。

エーアイトラスト株式会社は、投資家を募集する時に虚偽の内容を記載するなどして行政処分を受け、証券取引等監視委員会が行政処分を行うと同時に建議を行いました。

その内容は以下のとおり。

金銭の貸付けを出資対象事業とする集団投資スキーム持分(以下「貸付型ファンド」という。)を販売する業者に対する検査において、

・ 資金使途等についての虚偽表示

・ 貸付先、担保等についての誤解表示

・ 貸付先がファンドからの借入れを返済することが困難な財務の状況にあることを認識しながら募集を継続

など、多数の金融商品取引法違反事例や投資者被害が生じている悪質な事例が認められた。

これらの事例が生じた背景には、貸付型ファンドを販売する業者の法令等遵守態勢が不十分であったことに加え、貸付型ファンドの投資家(資金の出し手)に対し、貸付先(資金の借り手)に関する情報が十分に提供されていないこともある。当該情報は、投資家が出資金の回収可能性を判断する上で重要な情報であるものの、貸金業登録に係る制度の運用上との関係から、現状では貸付先の特定につながる情報の明示を控えた運用となっている。

(注)投資家の貸金業登録の要否を判断する上で、借り手を特定することができる情報が明示されないこと(匿名化)と、複数の借り手に対して資金を供給するスキームであること(複数化)が考慮の一要素とされている。

したがって、こうした投資家への情報提供の状況に鑑みれば、貸付型ファンドに係る投資者保護の一層の徹底を図る観点から、投資家がより適切な投資判断を行うための情報提供や説明内容の拡充などの適切な措置を講ずる必要がある。

出典:金融庁

証券取引等監視委員会も、匿名化について問題だと感じていたことがわかります。

2019年3月 匿名化解除

3月18日に金融庁から匿名化の解除が発表されました。

一定の要件を満たせば、借り手の詳細情報を開示できるようになりました。一定の要件とは、投資家が借り手と接触しないことなどです。たとえ貸し倒れが起こったとしても、借り手企業に直接取り立てに行ったりすると違法行為になってしまいます。

公開できるようになった情報は主に以下のとおりです。

  • 企業名
  • 企業の所在地
  • 担保の詳細

匿名化解除で何が変わる?

匿名化解除で以下のような変化が起こると考えられています。

  1. 投資家が投資する案件を選びやすくなる
  2. 情報の公開度が事業者選びの重要な要素になる
  3. ソーシャルレンディング全体のイメージが向上する
  4. 詐欺事件が減る

①投資家が案件を選びやすくなる

匿名化解除により、投資家は投資する案件を選びやすくなります。

企業名、業務内容、財務情報、経営者の経歴などの情報は、案件の安全性を見極める上で参考になります。社名がわかれば、企業のホームページを見るなどして追加で情報収集を行うこともできます。

借り手企業とソーシャルレンディング事業者が関連会社かどうかわかるのも匿名化解除の良い点です。ただし、関連会社であることが必ずしも悪いわけではありません。

また、担保が設定されている場合、担保の住所や広さや築年数などについても開示されれば、担保の評価額の妥当性についても判断することができます。

②情報の公開度が事業者選びの重要な要素になる

匿名化の解除は、「必ず借り手の詳細情報を開示しなければならない」という訳ではなく、「借り手の詳細情報を隠す義務がなくなった」というだけです。

そのため、借り手の詳細情報を開示するソーシャルレンディング事業者も、借り手の詳細情報を開示しない事業者もあり得ます。

借り手企業の中には、詳細情報を開示されたくないと感じる企業もいるはずです。

しかし、匿名化が解除された後に借り手企業の詳細情報を隠してしまうと、「何か問題のある借り手に融資したり、関連会社であることを隠して投資を募集したりしているのではないか」と疑いをかけられてしまうことになります。

借り手企業の審査を行ってきた事業者は、匿名化解除に対応してくると考えられます。ソーシャルレンディング事業者にとって、借り手企業の詳細情報を開示できることはプラスに働くと考えられます。

公開することで信頼が得られれば投資家から資金を集める上で有利になり、借り手企業にとっても資金を集めるために動画メッセージを用いたりして、アピールが行いやすくなります。

投資家にとっては、匿名化解除に対応してくる事業者のほうが信頼できると言えます。2019年9月現在、匿名化の解除に対応している事業者は以下のとおりです。

  • SBIソーシャルレンディング
  • クラウドバンク
  • Funds
  • クラウドクレジット
  • オーナーズブック
  • SAMURAI

③ソーシャルレンディング全体のイメージが向上する

匿名化はソーシャルレンディング最大の問題点と言われてきました。

ソーシャルレンディングには、匿名化の影響で「怪しい」「うさんくさい」などのイメージがありました。

匿名化が解除されれば、業界全体の透明性が高まり、ソーシャルレンディングのイメージは向上するはずです。

④詐欺事件が減る

今まで、ソーシャルレンディング業界では匿名化を悪用した、詐欺まがいの事件が複数起きていました。

匿名化解除により、情報が多く公開されるようになると、詐欺は起こりにくくなるはずです。