転職活動は、「内定」を取って終わりではありません。
その後に、最後の関門である「退職交渉」が待ち受けています。退職交渉では、基本的に現職の企業からの引き止めが入るため、想像以上に長引く上に、精神的な負担も大きいです。
このページでは、「退職交渉で引き止められた時の対処法」や「引き止めに応じた際のリスク」などを元リクルートの転職エージェントが解説します。
退職を引き止められることはある?
退職を引き止められることは、よくあります。
退職者:会社辞めます!
上司:いいですよ!
とすぐに退職交渉が終わることはまずありません。
なぜなら、企業や上司にとって、退職者が出ると少なからずマイナスの効果が生じるからです。
退職を引き止める理由【企業と上司の視点】
企業が引き止める理由
退職者が出ると、企業の事業計画に支障が生じます。大企業のように余剰人員を抱えている場合は別ですが、一般の中小企業だと、一人の欠員が大きなマイナスになります。
売り上げに直接影響したり、他の社員に負担が及び士気が下がったり、組織体制の変更や、欠員補充のための採用活動を開始しなければいけないからです。
特に、退職を切り出す時期が上半期・下半期の事業計画を策定したタイミング(2〜3月や7〜8月)だとさらに大変です。組織体制や人員計画、予算決めなどをやり直す必要が生じます。
日本では未だに「新卒を育てて長期的に活躍してもらう文化」が残っています。仕事ができない新卒の時から教育(投資)を行い、3〜5年後に戦力として活躍してもらう(投資を回収)ことを前提としています。
そのため、3〜5年以降で辞める場合、企業側としては「仕事ができない時から給料を払って教育してきて、やっと戦力になったのに辞めるとはどういうことだ!」となることがあります。
上司が引き止める理由
部下に退職者が出ると、上司の査定に響くことがあります。上司には部下のマネジメント責任があるため、退職者が出ると、管理能力を問われることになります。
また、部下の退職に伴い上司の業務量が一時的に増えてしまいます。自身の管轄するチームや部署の体制・計画を変更しなければいけません。そのため、上司はあの手この手で退職を引き止めようとしてくることが多いです。
中には、本当にあなたのことを考えて引き止める上司もいます。客観的な目線で、「今転職するのはもったいない」、「逃げているだけで、このままだと成長できない」と判断してアドバイスを送ることも。
そのため「引き止め=会社・上司の都合」だけではないということも、頭の隅に入れておいてください。
引き止めに応じるリスクは大きい
一度退職を切り出したあとに、引き止めに応じて現職に留まることはあまりおすすめしません。なぜなら、2点のリスクがあるからです。
- 人事査定に響くリスク
- 左遷されるリスク
人事査定に響くリスク
一度退職交渉を進めてしまうと、その後の人事査定に響く可能性があります。
企業側は、「退職する可能性のある社員に、大きな仕事や重要なポストを任せることはできない」という考えに及ぶことがあるため、出世が難しくなるケースはあります。
左遷されるリスク
企業側が、「今辞められるのは困るけど、○ヶ月後なら辞めてもらっても良い」という考えで退職を引き止めていることはよくあります。その場合、引き止めに応じたとしても、あとあと左遷されるリスクがあります。
先述したように、上半期・下半期の事業計画を決めた時期など、「今辞められのは困る」タイミングが企業にはあります。その時期さえ乗り切り、次の事業計画でその退職を申し出た人物を「退職前提」で立案してしまえば、企業側にマイナスの影響はあまりありません。
すると、退職を申し出た人物は邪魔者になり、見せしめや報復人事のような左遷が行われる可能性があります。同じ理由で、引き止めの時に「年収を上げる」「希望部署に配属する」などの甘い言葉を言われたとしても、それを実現してもらえる保証は少ないでしょう。
退職の引き止めに応じた結果、本当に現職の待遇が良くなる場合もあります。企業は、心の底から残って欲しいと思っていることもあるからです。
しかし、引き止めに応じるということは、先述した「人事査定に響く」「左遷される」という大きなリスクがあることには変わりません。引き止めに応じた後にどうなるかは、絶対に分からないです。
引き止めに合い、その場では心が動いたとしても、必ず上記のリスクがあることを考慮の上で判断してください。
引き止めを長引かせないための退職交渉の方法
引き止めを長引かせることなく、スムーズに進めるためには、3つのポイントがあります。
■スムーズに退職交渉を進める3つのポイント
- ネガテイブなことは絶対に言わない
- 転職先の企業名は絶対に言わない
- いつまでにどういう行動を取るか約束させる
詳しくは下記の記事で徹底解説しているため、興味のある方はご覧ください。
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よくある引き止めケースとその対処法
引き止めケースは、たいてい決まっています。基本的には下記3パターンです。
- 引き止めケース①:希望部署への配属を打診
- 引き止めケース②:年収アップを打診
- 引き止めケース③:泣き落とし
それぞれの内容と、ケースごとに考えるべきこと、そして対処法を解説していきます。
引き止めケース①:希望部署への配属を打診
退職を申し出ると、希望部署への配属を条件に企業に残留するよう引き止められることがあります。
例えば、営業職から企画職への転職を行う場合、「それなら来期、ウチの会社の企画部署へ配属するから残りなよ」と言われることなどがあります。
考えるべきこと
この時に考えるべきことは、先述した「引き止めに応じた後のリスク」と、「本当に自分の理想を叶えられるのはどちらか」です。
先述した通り、引き止めに応じたとしても、念書や契約書でも交わさない限り、実際に希望部署へ配属される保証はありません。また、のちのち左遷される可能性もあります。
そのリスクがあったとしても、転職するよりも現職で希望部署に配属されることの方が「自分の理想を叶えられる」のであれば、引き止めに応じる選択肢もあるでしょう。
対処法
希望部署への打診を上手くかわす方法は、「転職先でしか実現できないことを述べる」です。
「自分のやりたいことは、現職で希望部署に配属されても叶えられない。転職先に行くことこそが、自分のやりたいことを実現できる」と明確に伝えましょう。また、仕事内容や任される業務の範囲、キャリアパス、業界などの「違い」をしっかり伝えましょう。
引き止めケース②:年収アップを打診
退職を申し出ると、年収アップを条件に企業に残留するように引き止められることがあります。
例えば、「転職先と同じ金額(もしくはそれ以上の金額)を出すから残ってくれ」と言われることなどがあります。
考えるべきこと
「引き止めケース①」と同様に、「引き止めに応じた後のリスク」と、「本当に自分の理想を叶えられるのはどちらか」を考えましょう。
繰り返しになりますが、打診された年収アップが実現される保証はありません。それでも、「年収がそれだけ出れば、総合的に考えても転職先よりも現職の方が断然良い」のであれば、現職に留まる選択肢もあります。
対処法
年収アップの打診を上手くかわす方法は、「年収の金額だけが転職理由ではないことを述べる」です。年収だけでなく、転職先の仕事内容や企業風土、キャリアパスなどの、他の観点が重要であることを述べましょう。
引き止めケース③:泣き落とし
退職を申し出ると、上司や社長が情に訴える方法で引き止めてくることがあります。
例えば、「ずっと一緒にやってきたじゃないか」「俺はお前のことを家族のように思っている」「お前に抜けられてしまうと、企業が潰れてしまうかもしれない」など、とにかく情に訴えてきます。
考えるべきこと
一番考えなければいけないのは、「後悔しないこと」です。泣き落としされて、後悔の念が残ったまま転職先に行くことは、精神衛生上よくありません。
そのため、転職先のメリット・デメリットと、現職に留まるメリット・デメリットをもう一度冷静に分析し、「自分が本当に大切にしていること」を考えましょう。転職先の方が良いのであれば、自信をもって、転職先に進むべきです。
相手のために、自分のやりたいことや自分の人生を我慢し、制限することが大切なのであれば、現職に残れば良いと思います。しかし、誰も責任を取ってくれないですし、繰り返しますが、「引き止めに応じるリスク」があることを忘れないようにしましょう。
対処法
泣き落としをうまくかわす方法は、「それでも、転職することこそが自分のやりたいことを実現できる」と明確に伝え続けることです。
泣き落としに対して、まともに議論をする必要はありません。むしろ、感情論で情に訴えてくる相手と議論をすると、本質が見えにくくなり、泥沼にはまっていきます。そのため、あくまでも冷静に、転職先に行くことこそが、自分のやりたいことを実現できるのだと伝えましょう。
その他、「引き継ぎ期間を長めに取る」ことで、現職に義理を果たすこともできます。しかし、内定先の「希望入社日」との兼ね合いがあるため、しっかり内定先と相談しましょう。
度の超えた引き止め(トラブル)が起こった場合
退職交渉では、単純な引き止めだけでなく、「脅し」や「退職に応じない」などの、度の超えた引き止め(トラブル)が行われることもあります。
その際には、トラブルが起きた時用の対処法があります。詳しくは下記でケースごとに徹底解説しているため、興味のある方はご覧ください
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引き止めが長引いた時の最終手段
日本では、2週間前に退職を雇い主に通知すると退職することができる旨の法律が定められています。
■民法法627条1項
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
就業規則によって、「退職は○ヶ月前までに申し伝える必要がある」と記載されていたとしても、上記の民法の規定が優先されます。
退職届けを受け取ってもらえない場合は、弁護士にお願いして「内容証明書」を企業宛に送りましょう。「内容証明書」とは法的に「提出した」と認められる書類です。そのため、相手が受け取りを拒否したとしても、退職をを申し入れたと認定されます。
しかし、この方法はあくまでも「最終手段」。現職との関係がこじれて修復不可能になった場合にのみ実行するべきです。この方法で退職を強行すると、恨まれたり、悪い噂を流される可能性もあります。