日本では「株式会社」が一般的ですが、2006年の会社法の改正により「合同会社(LLC)」が新設されました。
最近では、アップルジャパン株式会社が「Apple Japan合同会社」に変更したり、DMM.comが2018年5月25日付で「合同会社DMM.com」に変更されるなど、有名企業が株式会社から合同会社に変更するケースが増えてきました。
その他にも、グーグルやアマゾン、シスコシステムズ、西友など、大手企業が合同会社形態を採用しています。「合同会社とは何か?」「合同会社のメリット」「合同会社の設立の方法」を解説します。
合同会社とは
合同会社とは、2006年の会社法の改正により新設された会社形態です。アメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルとしているため、日本版LLCとも呼ばれています。
合同会社の特徴
合同会社の特徴は大きく3つあります。
- 内部関係については組合的規律が適用される
- 社員全員の責任が有限責任であること
- 法人格が認められていること
①内部関係については組合的規律が適用される
1つ目は、会社の内部関係については組合的規律が適用されることです。合同会社の内部関係は、合名会社や合資会社と同様に、組合的規律が適用されるため、定款変更等の重要な事項については、社員全員の同意が必要となります。また、持分を他人に譲渡する場合、他の社員全員の同意が必要となるのです。
②社員全員の責任が有限責任である
2つ目は、社員全員の責任が有限責任であることです。合同会社の社員の責任は、株式会社の株主と同様に、有限責任※1が採用されています。
※1 有限責任とは、会社の債務に対して、出資額の範囲を限度額として返済責任を負うこと。
③法人格が認められている
3つ目は、法人格が認められていることです。合同会社は有限責任事業組合(LLP)※2とは異なり、会社であるので法人格が認められています。また、株式会社に移行することも可能であり、利益の内部留保も可能です。ただし、有限責任事業組合で認められている構成員課税(パススルー)は認められていません。
※2 LLP(Limited Liability Partnership:有限責任事業組合)とは、中小企業同士の連携、ベンチャー企業の振興、研究開発の促進等をねらいとして、経済産業省によって2005年に民法上の特例として創設された形態。組合員の有限責任、内部自治の原則の徹底、構成員課税(パススルー)の適用を特徴としている。LLPは、有限責任制などの点で、2006年の会社法で新たに創設されたLLC(Limited Liability Company:合同会社)と共通する点が多いが、法人格をもたない、株式会社に移行できない、利益の内部留保ができない等の点でLLCと異なる。
参考文献:①経営学の基本(経営学検定試験公式テキスト)
合同会社を採用している有名企業
合同会社形態を採用している有名企業は数多くあります。その中でも有名な企業を紹介します。
・Cisco
・DMM.com
・アマゾンジャパン
・デロイトトーマツコンサルティング
・西友
合同会社の設立数
合同会社の設立数は2006年(平成18年)に新設されて以来、右肩上がりで増えています。注目したいのが、占有率です。平成28年度に設立された合同会社の数は23,787社、その占有率はなんと20.8%です。新たに設立された会社の10社中2社は合同会社ということになります。
株式会社 | 合同会社 | |||
年度 | 設立数 | 占有率 | 設立数 | 占有率 |
平成18 | 76,570 | 95.80% | 3,392 | 4.20% |
平成19 | 95,363 | 94.00% | 6,076 | 6.00% |
平成20 | 86,222 | 94.10% | 5,413 | 5.90% |
平成21 | 79,902 | 93.30% | 5,771 | 6.70% |
平成22 | 80,535 | 91.80% | 7,153 | 8.20% |
平成23 | 80,244 | 89.80% | 9,130 | 10.20% |
平成24 | 80,862 | 88.10% | 10,889 | 11.90% |
平成25 | 81,889 | 84.90% | 14,581 | 15.10% |
平成26 | 86,639 | 81.40% | 19,808 | 18.60% |
平成27 | 88,803 | 80.00% | 22,223 | 20.00% |
平成28 | 90,405 | 79.20% | 23,787 | 20.80% |
合同会社 3つのメリット
合同会社が増えている理由は、株式会社にはないメリットがあるからです。ここでは合同会社の3つのメリットを紹介します。
設立費用を抑えることができる
合同会社は6万円程度で設立が可能です。合同会社と株式会社を比較してみましょう。
※下表は法定費用のみの算出です。法定費用以外にも印鑑の作成などにお金がかかります。
株式会社 | 合同会社 | |
収入印紙代 | 4万円(電子定款の場合不要) | 4万円(電子定款の場合不要) |
定款の認証手数料 | 5万円 | ー |
定款の謄本手数料 | 約2,000円 | 約2,000円 |
登録免許税 | 15万円 | 6万円 |
合計 | 約20万円〜 | 約6万円〜 |
経営の自由度が高い
合同会社は株式会社よりも自由度が高いため、意思決定の迅速化、事業推進の効率化を図ることができます。
利益配分のケース
株式会社の場合・・・出資割合に応じて利益が分配される
合同会社の場合・・・出資割合に関係なく定款(会社のルール)に応じて決定
組織設計のケース
株式会社の場合・・・株主総会を経て決定
合同会社の場合・・・株主総会を経ずに決定
決算の公告義務がない
会社を設立すると、1年に1回は決算を行う必要があります。合同会社でも決算を行う必要がありますが、株式会社とは異なり、決算内容を公告義務がないのです。つまり、毎年最低6万円の節約ができるのです。
株式会社の場合
決算内容を官報などで公告する義務がある
(官報に掲載する費用が最低6万円かかります)
合同会社の場合
決算内容を官報などで公告する義務はない
合同会社の設立方法(5ステップ)
設立の流れ
①設立項目の決定
②定款の作成
③登記書類の作成
④法務局への提出
⑤開業の届出
Step1:設立項目の決定
合同会社(LLC)の設立するには、まず下記項目を決定する必要があります。
①商号:会社の名前
②事業目的:どのような事業を行うか
③本店所在地:会社の住所
④資本金:1円からでも設立可能
⑤社員構成:代表は誰か、社員の役割
⑥事業年度:自由に期間を設定(繁忙期は避けた方がよい)
⑦会社印鑑:設立書類に押印する印鑑や業務で使う印鑑など
⑧印鑑証明書の取得:法務局で登記を行う際に必要
⑨設立費用:約10万円
Step2:定款の作成
定款(会社の基本的なルール)は株式会社と異なり「定款の認証(5万円)」が不要なため、非常に簡単に作成できます。定款は、紙ではなく電子定款で作成すると、定款に貼る印紙収入代(4万円)が不要になるので、電子定款をおすすめします。定款に記載する内容は、Step1の設立項目をメインに記載していきます。
定款の記載内容
①表紙
②商号
③事業目的
④本店所在地
⑤公告
⑥社員および出資金
⑦社員の責任
⑧業務執行社員
⑨代表社員
⑩社員の加入
⑪任意退社
⑫決定退社及びその特訓
⑬損益の分配と分配の割合
⑭最初の事業年度
⑮記名押印(電子定款のみ)
定款の記入例
定 款
第1章 総則
第1条(商号)
当会社は、合同会社転職アシストと称する。 英文では、Tensyoku Assist,LLCと表示する。
第2条(目的)
当会社は、次の事業を営むことを目的とする。
1 ◯◯
2 ◯◯
3 前各号に付帯する一切の事業
第3条(本店の所在地)
当会社は、本店を 東京都転職区1−2−3 に置く。
第4条(公告の方法)
当会社の公告方法は、官報に掲載する方法により行う。
第2章 社員及び出資
第5条(社員の氏名、住所、出資)
社員の氏名及び住所、出資の価額は次のとおりである。
金100万円 東京都転職区1−2−3
転職 太郎
第6条(社員の責任)
当会社の社員の全部を有限責任社員とする。
第3章 業務執行権及び代表権
第7条(業務執行社員)
当会社の業務は、各社員が執行する。
第8条(代表社員)
当会社の代表社員は、社員 転職 太郎 とする。
第4章 社員の加入及び退社
第9条(社員の加入)
新たに社員を加入させる場合は、総社員の同意によって定款を変更しなければならない。
第10条(任意退社)
各社員は、事業年度の終了の時において退社をすることができる。この場合においては、各社員は、2か月前までに会社に退社の予告をしなければならない。
2前項の規定にかかわらず、各社員は、やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができる。
(法定退社)
第11条 各社員は、会社法第607条の規定により、退社する。
第6章 計 算
第12条(営業年度)
当会社の営業年度は、毎年4月1日から翌年3月末日までの年1期とする。
第6章 その他
第13条(定款に定めのない事項)
本定款に定めのない事項は、すべて会社法の規定による。
以上、合同会社転職アシスト設立のため、社員の転職 太郎は、電磁的記録である本定款を作成し、これに電子署名をする。
平成●●年●●月●●日
Step3:登記書類の作成
登記書類の作成は非常に簡単です。登記書類は全部で5種類あります。
登記書類
①合同会社設立登記申請書
②払込証明書(資本金が払い込まれているかの証明)
③印鑑届出書
④代表社員就任承認書
⑤本店所在地及び資本金決定書
Step4:法務局への提出
会社登記は「法務局で行う」「郵送で行う」「オンラインで行う」3つの方法があります。
※会社登記の申請日は、会社の設立日になります
Step5:税務署などへ開業の届出
登記書類を法務局へ提出すれば、会社登記は完了となりますが、会社の運営を行う上で税務署などへの届出を行う必要があります。
社員を雇用する場合
①法人設立届出書
②青色申告の承認申請書
③給与支払事務所等の開設届出書
④源泉所得税の納金の特例の承認に関する申請書
⑤棚卸資産の評価方法の届出書(任意)
⑥減価償却資産の償却方法の届出書(任意)
⑦労働保険 保険関係成立届
⑧従業員を雇う場合に必要。労働保険に関する届出
⑨労働保険 概算保険料申告書
⑩雇用保険 適用事業所設置届
⑪雇用保険 被保険者資格取得届
⑫健康保険/厚生年金保険新規適用届
⑬健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
⑭健康保険被扶養者(異動)届
社員を雇用しない場合
①法人設立届出書
②給与支払事務所等の開設届出書
③青色申告の承認申請書
④健康保険/厚生年金保険新規適用届出書
おわりに
いかがだったでしょうか?「合同会社とは何か?」「合同会社のメリット」「合同会社の設立の方法」を解説致しました。これから起業しようと考えている方は、株式会社だけでなく合同会社も選択肢の1つに加えてみてはいかがでしょうか。
最後までお読み頂きましてありがとうございました。