「先んずれば人を制す(さきんずればひとをせいす)」という故事成語を知っていますか?
結論から言うと、「先んずれば人を制す」の意味は「何事も他人より先に行えば自分が有利な立場に立てること」です。
この記事では「先んずれば人を制す」の意味だけでなく「使い方」や「由来」「類語」「対義語」、そして英語表現を詳しく解説します。
ビジネスにおいて非常に役立つ故事成語なので、意味・由来だけでなく、類語・対義語や英語表現までしっかり覚えましょう。
「先んずれば人を制す」の意味
「先んずれば人を制す」
読み:さきんずればひとをせいす
意味:何事も他人より先に行えば自分が有利な立場に立てること
先述した通り、「先んずれば人を制す」の意味は「何事も他人より先に行えば自分が有利な立場に立てること」です。
また、「先手を打てば勝利や成功の糸口をつかむことができるが、後手に回っていては勝つことはできない」という意味でも使われます。
「先んずれば人を制す」を分解すると
- 「先んずれば」:(他人より)先にする
- 「人を制す」:自分の勢力下におく
と考えられます。
ゲームやスポーツ、ビジネスに至るまで勝負ごとが発生する幅広いシーンで活用され言葉です。
「先んずれば人を制す」の由来は漢語
出典:amazon
「先んずれば人を制す」の由来は、中国の歴史家・司馬遷による歴史書『史記』の一節です。
『史記』は紀伝体という特定の人物のエピソードが記された中国を代表する歴史書です。「先んずれば人を制す」は、『史記』のエピソードのひとつ『項羽本紀』の中に登場します。
項羽本紀の内容
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『項羽本紀』には、項羽という春秋戦国時代の武将の出自や親族に関するエピソードが記されています。項羽は自らが本格的に決起(天下を起こすために行動すること)を起こす前に、項梁(項羽の叔父)と行動をともにしていました。
ある日、殷通という権力者が自ら天下を制するために、項梁を呼び出して自分の家臣になるよう依頼してきました。そのとき殷通が項梁に言った言葉の中に「吾聞、先即人制、後則爲人所制」というフレーズがあり、この部分が「先んずれば人を制す」の由来とされています。
原文:
吾聞、先即人制、後則爲人所制
書き下し文:
吾聞く、先んずれば即ち人を制し、後るれば即ち人の制する所となると
(われきく、さきんずればすなわちひとをせいし、おくるればすなわちひとのせいするところとなると)
意味:
他人よりも自分が先に行動することで他人を制する(支配する)ことができ、他人に遅れをとってしまうと自分が他人の臣下に下ることになる(支配される)ということを聞いた
この言葉を聞いた項梁は、外で待機していた項羽に目配せし、殷通を殺させます。そして殷通の部下たちを自らの支配下におさめることに成功します。まさに「先んずれば人を制す」を実践した結果を記したシーンです。
「先んずれば人を制す」の使い方と例文
例文1.先んずれば人を制す、この領域がブルーオーシャンのうちに参入すべきだ。
例文2.どうしても花形部署である商品企画部に行きたい。そのために先んずれば人を制すで同僚たちよりいち早く行動し人一倍仕事をこなそう。
例文3.先んずれば人を制す、勝負ごとは何事も先手を打つことで功を奏すことが多いと感じる。
例文4.先んずれば人を制すという言葉があるように、私はチェスでも将棋でも先攻のほうが勝ちやすい。
例文5.先んずれば人を制すというが、恋愛においては少し違うようだ。
「先んずれば人を制す」はビジネスやゲームなどの勝負ごとの際に、「自分から積極的に勝ちに行くべきだ」という姿勢を表す際にに使います。
「先んずれば人を制す」の類語
「先んずれば人を制す」の類語を6つ紹介します。
①先手必勝(せんてひっしょう)
「先手必勝」の意味は「先に行動した者が有利な立場に立てるということ」です。
「先手必勝」は、「先んずれば人を制す」と同様に試合やゲームなど勝負ごとの際に、よく使われる四字熟語です。
例文1.あの選手は先手必勝とばかりに、試合開始と同時に攻撃をしかけていた。
例文2.一概には言えないが、勝負ごとでは先手必勝が有効なことが多い気がする。
例文3.先手必勝というだろう、先に勝負を仕掛けていかなければ他社に後れを取るぞ。
②善は急げ(ぜんはいそげ)
「善は急げ」の意味は「良いと思ったことは、ためらわず、すぐに実行に移すべきということ」です。
「善は急げ」は、ダンマパタという仏教で最も古い仏典(仏の教えを記した書物)が由来とされています。
例文1.善は急げというだろう、いい考えが思いついたらすぐ行動すべきだ。
例文2.自分の強みを活かせる資格を見つけたので、善は急げで早速参考書を買って勉強しはじめた。
例文3.インテリア特集を見ていたら急に部屋を片付けたくなった。善は急げ、この気持ちが冷めないうちに取りかかることにした。
③機先を制する(きせんをせいする)
「機先を制する」の意味は「相手がまさに計画を実行・行動しようと意気込んでいるときに、相手より先に行動することで、その計画・気勢をくじき、相手より優位な立場に立つこと」です。
「機先を制す」は
- 機先:まさにことが起ころうとしている矢先
- 制す:自分のものにする
という構成になっています。「先に行動することで自分が優位な立場になる」という部分が、「先んずれば人を制す」の意味と似ています。
また「機先を制する」は「機先を征する」と誤った漢字で覚えている人がいるので、注意していてください。
例文1.今回のプロジェクトの成功は、市場や競合他社の動向をしっかりリサーチ・チェックしていた彼女の機先を制した判断で先手を打てたおかげである。
例文2.A国軍はB国軍の動きを察知すると、すぐに機先を制するように動き出した。
例文3.僕が反論しようと口を開こうとしたら、彼女が機先を制するように言葉を発したのだった。
④先手は万手(せんてはまんて)
「先手は万手」の意味は「他人よりも先に物事を行えば、自分が他人より有利な立場に立てること」です。
「先手」は「先んずれば」、「万手」は「人を制す」とそれぞれ意味が似ています。
例文1.先手は万手というだろう、こういったゲームはまず先手を打って優位に立っていることが重要だ!
例文2.先手は万手、やったほうがいいとわかっていることは先にやっておくことが得策だ。
例文3.様子を見ていたら、アイツに先を越されて取られてしまった…先手は万手、あれこれ考えずにまずは行動してみるべきだったなあ。
⑤思い立ったが吉日(おもいたったがきちじつ)
「思い立ったが吉日」の意味は「物事を思いついたら、あれこれ考えずにすぐに実行したほうがいいということ」です。
吉日は本来暦の上の縁起がいい日のことです。この「吉日」の意味を使用し、「思いたったが吉日」は「物事を思いついた今(この日)という最も縁起がいい日のうちに(すぐに)その物事を実行したほうがいい」という意味になりました。
また「思い立ったが吉日」の「吉日」は「きちじつ」が一般的ですが、「きつじつ」「きちにち」「きつにち」と読んでも誤りではありません。
例文1.新しい企画のアイディアが浮かんだ。思い立ったが吉日、早速協力先を探そう。
例文2.思い立ったが吉日、今のこの瞬間から甘いもの断ちして、ダイエットするぞ!
例文3.このまま今の仕事をしていていいのだろうか…。よし! 思い立ったが吉日で、今日から転職活動を始めよう。
⑥早い者勝ち(はやいもの勝ち)
「早い者勝ち」の意味は「他人より早く行動したものが利益を得ること」です。
「早い者勝ち」の「他人より早く行動することで自分が利益を得ることができる」という部分が、「先んずれば人を制す」の意味に似ています。
例文1.人気ブランドの新商品はどうしても早い者勝ちになってしまう。しかも限定商品ならなおさらだ。
例文2.早い者勝ちというだろう、欲しいと思ったらすぐ行動しなければ手に入れることができないものもある。
例文3.新市場といえど、参入企業も多くなってきた。早い者勝ちというが、あらゆる戦略を立てていち早く行動したものがこの市場のトップシェアを築けるだろう。
「先んずれば人を制す」の対義語(反対語)
ここでは「先んずれば人を制す」の対義語を紹介します。
「先んずれば人を制す」の意味は、「何事も他人より先に行えば自分が有利な立場に立てること」でした。つまり「先んずれば人を制す」の反対の意味は「物事を人より先に行うことで人より不利な立場に立つ、もしくは失敗してしまう」となります。
先述した意味を持つ「先んずれば人を制す」の対義語は、「急いては事を仕損じる」です。意味は「物事を急いで焦って進めると失敗する。転じて、急ぎでいる時ほど物事にはじっくり落ち着いて取り組むべきである」です。
「急いては事を仕損じる」は、「他人より先に進めて有利になろうとするあまり、あせって失敗してしまう、つまり他人より不利な立場になってしまう」という「先んずれば人を制す」とは反対の意味を用いたことわざです。
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「先んずれば人を制す」の英語表現
「先んずれば人を制す」には、英語の定型表現がいくつかあります。
なかでも「先んずれば人を制す」を表す代表的な英語表現は
です。
この英文を分解して考えると、
- Take the initiative:主導権を取りなさい、率先して行動しなさい(先んずれば)
- and you will win:そうすればあなたが勝つでしょう(人を制す)
となります。
1文目の文は
- initiative:(名詞)主導権
- take:(動詞)「~を取る」
を使用し、命令形で構成されています。
カンマの後の2つ目の文は、andを接続詞として「そうすればあなたが勝つだろう」という意味を表す英文として構成され、1文目の結果を表しています。
その他の英語表現
「先んずれば人を制す」にはほかにも定型表現があります。
- The first blow is half the battle.:最初の一撃で戦いの半分は終わる
- First come, first served.:早い者勝ち
こちらの表現も合わせて覚えておくと、「先んずれば人を制す」をビジネスシーンでも活用できること間違いなしです。
まとめ
「先んずれば人を制す」は武将が活躍する古代中国で生まれた戦法のひとつを表す故事成語です。
そのため「先んずれば人を制す」はスポーツの試合やゲームといった勝ち負けが発生する日常生活やさまざまな戦略が必要となるビジネスなど幅広いシーンで活用されます。
「先んずれば人を制す」の意味だけでなく、類語や対義語、そして英語表現までおさえて、さまざまなシーンで活用してみてください。
①「先んずれば人を制す」の意味
・何事も他人より先に行えば自分が有利な立場に立てること
②「先んずれば人を制す」の由来
・中国の歴史家・司馬遷による『史記』から
③「先んずれば人を制す」の使い方と例文
・先んずれば人を制す、この領域がブルーオーシャンのうちに参入すべきだ。
・どうしても花形部署である商品企画部に行きたい。そのために先んずれば人を制すで同僚たちよりいち早く行動し人一倍仕事をこなそう。
・先んずれば人を制す、勝負ごとは何事も先手を打つことが功を奏すことが多いと感じる。 など
④「先んずれば人を制す」の類語
・先手必勝
・善は急げ
・機先を制する
・先手は万手
・思い立ったが吉日
・早い者勝ち
⑤「先んずれば人を制す」の対義語(反対語)
・「急いては事を仕損じる」
⑥「稼ぐに追いつく貧乏なし」の英語表現
・The first blow is half the battle.
・First come, first served.
・Take the initiative, and you will win.