「羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)」という故事成語を知っていますか?
結論から言うと、「羹に懲りて膾を吹く」の意味は「失敗に懲りて必要以上に用心深くなること」です。
この記事では「羹に懲りて膾を吹く」の意味はもちろん、由来や使い方、英語表現、類語、対義語まで詳しく解説していきます。
誤用しやすい故事成語なので、この記事で正しい意味と使い方を覚えましょう。
「羹に懲りて膾を吹く」の意味
羹に懲りて膾を吹く
読み:あつものにこりてなますをふく
意味:失敗に懲りて必要以上に用心深くなること
先述した通り、「羹に懲りて膾を吹く」の意味は「失敗に懲りて必要以上に用心深くなること」です。用心深さをネガティブに表現した言葉です。
- 羹(あつもの):肉や野菜を入れた熱いお吸い物
- 膾(なます):生魚を細かく切った冷たい料理(故事成語ができた当時の料理)
という意味で、「羹に懲りて膾を吹く」は羹を食べた時の熱さに懲りて、熱くない、むしろ冷たい料理である膾ですら、息を吹きかけて冷まして食べようとする様子を表しています。
「羹に懲りて膾を吹く」の由来は『楚辞』
「羹に懲りて膾を吹く」の由来は中国の古典である『楚辞(そじ)』です。屈原という人物が記したとされている「楚辞 九章 惜誦(そじ きゅうしょう せきしょう)」の一節に、「 羹に懲りて膾を吹く」が登場します。
「楚辞 九章 惜誦(せきしょう)」の一節を見てみましょう。
・懲於羹而吹齏兮、~
書き下し文
・羹に懲りて齏(せい)を吹く、~
現代語訳(意味)
・羹の熱さに懲りて、冷たい齏(膾・なます)ですら冷まして食べるということがある、~
現代では「羹懲りて膾を吹く」の「なます」は「膾」と記しますが、当時は齏(※異体字)という単語を使用し、「せい」と読みます。
「羹に懲りて膾を吹く」の例文と使い方
「羹に懲りて膾を吹く」は用心することをネガティブに表すときに使用する言葉です。
「羹に懲りて膾を拭く」は「念には念を入れて」という意味で誤用されることが多いので、注意が必要です。
例文1.羹懲りて膾を吹くというように、彼は以前高速道路を走っていたときにスピード違反で捕まってから、一般道でも最低限のスピードで走っている。
例文2.何をそんなに慎重になっているんだ?羹懲りて膾を吹くというが、失敗を引きずって用心しすぎるのは逆によくないぞ。
例文3.昔川で溺れてから、水が怖い。羹懲りて膾を吹くというが、当時はお湯を張った湯舟ですら怖かったさ。
例文4.小学生のころ、おばあちゃんちで飼っていた猫にひっかかれた。それからは、羹懲りて膾吹くというように、どんなに小さな猫でも警戒してしまう。
例文5.羹懲りて膾吹くというが、彼女はこの前のプロジェクトの失敗で、少し慎重になりすぎているようだ。
「羹に懲りて膾を吹く」の類語
「羹懲りて膾を吹く」の類語を5つ紹介します。
①黒犬に噛まれて赤犬に怖じる(くろいぬにかまれてあかいぬにおじる)
「黒犬に噛まれて赤犬に怖じる」の意味は「一度恐ろしい経験をすると、その時と似たような状況に対して、必要以上に怯えてしまうこと」です。
「黒犬に噛まれて赤犬に怖じる」は、一度黒犬に噛まれた者は、色が異なる赤い犬でも怖がってしまう様子を表しています。
例文1.黒犬に噛まれて赤犬に怖じるというように、一度大きな失敗をすると、挑戦することが怖くなってしまう。
例文2.黒犬に噛まれて赤犬に怖じるというが、前職の女性上司のことがトラウマになってしまって、女性の先輩もみんな怖く感じてしまう。
例文3.黒犬に噛まれて赤犬怖じるというように、試合の大事な局面で失点してから、試合に出ること自体が怖くなってしまった。
②舟に懲りて輿を忌む(ふねにこりてこしをいむ)
「舟に懲りて輿を忌む」の意味は「以前の失敗に懲りて必要以上に慎重になってしまうこと」です。
「舟に懲りて輿を忌む」は、舟に乗って嫌なこと・ひどいことを経験した者は、あらゆる乗り物、輿 ※1ですら嫌がる様子を表しています。
※1 輿:昔の乗り物。人が担いで移動する乗り物。
例文1.船に懲りて輿を忌むというが、あの案件の失敗から、あらゆる業務に自信が持てない。
例文2.船に懲りて輿を忌むというが、一度の失敗で臆病になっていたら何もできないよ。
例文3.このスポーツを始めた時は、怖いもの知らずで大会に臨めた。しかし、一度大きな失敗をしてからは、船に懲りて輿を忌むというように、大会にエントリーするだけで震えてしまう。
③蛇に噛まれて朽ち縄に怖じる(へびにかまれてくちなわにおじる)
「蛇に噛まれて朽ち縄に怖じる」の意味は「一度怖い目に会うと似た者、同じ境遇に会うと何でも怖がってしまうこと」です。
「蛇に噛まれて朽ち縄に怖じる」は、一度蛇に噛まれるというひどい目に会うと、道端に落ちている朽ちた縄(形が崩れて使えなくなった縄)ですら、蛇に見えて怯えてしまう様子を表しています。
例文1.蛇に噛まれて朽ち縄に怖じるというが、耳に虫が入ってから、耳元で木の枝がゆれるだけでびくついてしまう。
例文2.この前先輩にガチギレされて本当に怖かった。蛇に噛まれて朽ち縄に怖じる、先輩に似ている人を見ると、背筋が伸びてしまうよ。
例文3.蛇に噛まれて朽ち縄に怖じるというように、昔ひどい目にあわされた元彼女に似た女を見かけると、思わず見つからないように足早に歩いてしまう。
④黒犬に噛まれて灰汁の垂れ滓に怖じる(くろいぬにかまれてあくのたれかすにおじる)
「黒犬に噛まれて灰汁の垂れ滓に怖じる」の意味は「一度怖いことを経験すると、似ているものをすべて怖がってしまうこと」です。
「黒犬に噛まれて灰汁の垂れ滓に怖じる」は、黒犬に噛まれるという怖い経験をすると、灰汁 ※1 に混じった黒い滓(かす)ですら黒犬に似ているように見えて、怖く感じてしまう様子を表しています。
※1 灰汁…灰を水に溶かして作る液体。アルカリ性の液体で洗濯や染めものに使用する。
例文1.幼いころに腕を這われてからクワガタが苦手だ。黒犬に噛まれて灰汁の垂れ滓を怖じるというように、夏になるとあらゆる黒い物体が恐ろしく見える。
例文2.昔近所に住んでいた犬に噛まれてからどんなに小さな犬でも怖い。まさに黒犬に噛まれて灰汁の垂れ滓を怖じるだ。
例文3.黒犬に噛まれて灰汁の垂れ滓を怖じるというように、幼いときのトラウマから、とにかく虫が嫌いだ。
⑤火傷火に怖じる(やけどひにおじる)
「火傷火に怖じる」の意味は「一度失敗すると必要以上に慎重になってしまうこと」です。
「火傷火に怖じる」は「羹懲りて膾を吹く」と同様に、ネガティブな表現として使用します。
例文1.火傷火を怖じるというけれど、一度納期が間に合わなかったからってそんなに慎重になりすぎなくて大丈夫よ。
例文2.彼女、最近勢いがないね。火傷火を怖じるというけれど、もしかしてこの前のプロジェクトのこと気にしてるのかな?
例文3.火傷火に怖じるというように、一度の失敗をいつまでも引きずってはいけない。
「羹に懲りて膾を吹く」の対義語(反対語)
「羹に懲りて膾を吹く」の対義語を2つ紹介します。
①焼け面火に懲りず(やけづらひにこりず)
「焼き面火に懲りず」の意味は「懲りずに同じ失敗を繰り返すこと」です。
「焼け面火に懲りず」は、江戸時代の浄瑠璃で使用された表現で、顔に火傷をしたものが懲りずに火に近づく様子からできたことわざです。
例文1.あの子、また似たような男と付き合ってる。焼け面火に懲りずとは、まさに彼女のことね。
例文2.あのさ、先月も同じことでクライアントに怒られてたでしょ?焼き面火に懲りずで同じ失敗ばかりしていると、営業から外されるよ。
例文3.焼け面火に懲りずというが、あんなに同じ失敗してもへこたれないメンタルの強さは、彼の強みかもしれないね。
②火傷火に懲りず(やけどひにこりず)
「火傷火に懲りず」の意味は「過去の失敗に懲りず、同じことを繰り返すこと」です。
「焼き面火に懲りず」と同様に、顔に火傷をしたものが懲りずに火に近づく様子を表しています。
例文1.火傷火に懲りずというけど、何度失敗しても立ち上がる、あの精神力はあっぱれだね。
例文2.火傷火に懲りず、あのチームは同じ場面で失点して、毎シーズン優勝を逃すね。
例文3.火傷火に懲りず、何回失敗すればわかるの?いい加減直しなさいよ。
「羹に懲りて膾を吹く」の英語表現
「羹懲りて膾を吹く」の英語表現はいくつかあります。その中でもよく使われる英語表現を4つご紹介します。
- A scalded cat fears cold water.
- A burnt child dreads the fire.
- He that has been bitten by a serpent is afraid of a rope.
- Once bitten, twice shy.
①A scalded cat fears cold water.
まず、ひとつ目の「羹懲りて膾を吹く」の英語表現は「A scalded cat fears cold water.」です。直訳は「火傷した猫は冷たい水も恐れる」です。
- scalded:(形容詞)火傷した
- fear:(動詞)恐れる
といった単語を使用し、
- S【主語】:A scalded cat(火傷した猫)
- V【動詞】:fear(恐れる)
- O【目的語】:cold water(冷たい水)
という第3文型で構成されています。
②A burnt child dreads the fire.
ふたつ目の「羹懲りて膾を吹く」の英語表現は「A burnt child dreads the fire.」です。直訳は「火傷した子どもは火を恐れる」です。
- burnt:(形容詞)火傷した
- dread:(動詞)恐れる
といった単語を使用し、
- S【主語】:A burnt child(火傷した子ども)
- V【動詞】:dreads(恐れる)
- O【目的語】:the fire(火)
という第3文型で構成されています。
③He that has been bitten by a serpent is afraid of a rope.
三つ目の「羹懲りて膾を吹く」の英語表現は「He that has been bitten by a serpent is afraid of a rope.」です。直訳は「蛇に噛まれた者は縄をも恐れる」です。
- serpent:(名詞)蛇
- be afraid of:(動詞・熟語)恐れる
といった単語と熟語を使用し、
- S【主語】:He that has been bitten by a serpent(蛇に噛まれた者)
- V【動詞】:is afraid of(恐れる)
- O【目的語】:a rope(縄)
という第3文型で構成されています。
④Once bitten, twice shy.
四つ目の「羹懲りて膾を吹く」の英語表現は「Once bitten, twice shy.」です。直訳は「一度噛まれると二度目は憶病になる」です。
- bitten:(動詞・受け身)噛まれた
- shy:(形容詞)憶病
といった単語を使用しています。またこの英文では主語・be動詞が省略されています。
まとめ
「羹に懲りて膾を吹く」はその意味や正しい使い方、英語表現までしっかり覚えることで、ビジネスに活きる故事成語です。
そして「羹懲りて膾を吹く」の由来や類語、対義語までおさえておけば、ビジネスパーソンとしての教養が一気にアップすること間違いなしです。ぜひマスターしてくださいね。
①「羹に懲りて膾を吹く」の意味
・失敗に懲りて必要以上に用心深くなること
②「羹に懲りて膾を吹く」の由来
・中国の古典「楚辞 九章 惜誦(そじ きゅうしょう せきしょう)」から
③「羹に懲りて膾を吹く」の使い方と例文
・羹懲りて膾を吹くというように、彼は以前高速を走っているときにスピード違反で捕まってから、一般道でも最低限のスピードで走っている。
・何をそんなに慎重になっているんだ?羹懲りて膾を吹くというが、失敗を引きずって用心しすぎるのは逆によくないぞ。
・昔川で溺れてから、水が怖い。羹懲りて膾を吹くというが、当時はお湯を張った湯舟ですら怖かったさ。
・小学生のころ、おばあちゃんちで買ってた猫にひっかれた。羹懲りて膾吹くというように、どんなに小さな猫でも警戒してしまう。など
④「羹に懲りて膾を吹く」の類語
・黒犬に噛まれて赤犬に怖じる
・舟に懲りて輿を忌む
・蛇に噛まれて朽ち縄に怖じる
・黒犬に噛まれて灰汁の垂れ滓に怖じる
・火傷火に怖じる
⑤「羹に懲りて膾を吹く」の対義語
・焼け面火懲りず
・火傷火に懲りず
⑥「羹に懲りて膾を吹く」の英語表現
・A scalded cat fears cold water.
・A burnt child dreads the fire.
・He that has been bitten by a serpent is afraid of a rope.
・Once bitten, twice shy.